Book On Demandのこと。Espresso Book Machineが際立っているが、将来はどうか？
CAS-UB（http://www.cas-ub.com/）は書籍のコンテンツを編集・制作するサービスです。編集結果はEPUBとPDFに同時に出力できますので、POD（プリントオンデマンド）を利用する本つくりにも最適です。
PODというとダイナミックに変動する需要に応じて印刷するという幅広い概念で、ちらしやDMのようなものの印刷のまで含むと思います。これに対して、CAS−UBで制作する対象物はいわゆるページもの（論文、冊子、書籍）になりますので、BOD（ブックオンデマンド）と言うほうがより適切です。
但し、BODと言う言葉はまだ一般的に定着した言葉ではないようで、まったく別の意味に用いているケースも見受けられます。とりあえず、本稿では、PODでプリントしたものを製本した書籍と言う意味でBODを使います。
１．Espresso Book Machine（EBM）
三省堂の神田本店にEBMがあります。ここでは絶版本などの印刷・製本サービスを行なっています。
メニューを見ますと一般読者向けの書籍が多いようです。詳しく比較したわけではありませんが、通常の店頭書籍とあまり変わらない価格という印象を受けます。
現在は、自分で作ったPDFを本にして欲しいと言ってもだめなようです。このマシン用のデータはオンデマンドブックス社のサーバ上にあるようで、それが理由かもしれませんね。システム上はオンサイトのデータ入力も可能らしいので、持ち込みPDFの印刷・製本もやればできるのでしょうけど。ぜひ持ち込みPDFベースのBODにも対応して欲しいです。そうなったら試してみたいと思っています。
EBMの特徴はコピーから製本まで一連の加工を短時間で行うことにあります。
キヤノン、富士ゼロックス、コニカミノルタなどのプロダクションプリンティングのメーカからは、プリント装置（コピー機）と連動する大型のインライン自動製本機も販売されています。これらは、どうも機械全体としては高額なので、比較的低価格のものはEBMのみのようです。
2. BOD書籍の販売
コンテンツを販売する立場からはBODは理想的な手段に見えます。
2.1 書籍の流通でBODを利用する
三省堂のEBMは、BODを書店が利用する例ですが、オンライン流通業者がBODを行なっているケースがあります。
(1) Bookparkのオンデマンド出版
http://www.bookpark.ne.jp/
運営：コンテンツワークス株式会社
コンテンツワークスが運営するBOD流通サイトは次にあります。
http://www.booknest.jp/
コンテンツワークスはもともと富士ゼロックスの事業から由来しているようです。PODベースで本を作るだけではなく販売もしてもらえます。
(2) アマゾンがBODでの販売を始めた
http://japan.internet.com/wmnews/20110419/2.html
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20110419_440705.html
(アマゾンのWebページ）
http://www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&node=2229003051
アマゾンが米国でBODで本を作っている話は前から紹介されています。日本でも始めるというニュースがありますが、Webページを覗いて見ますと、英語の本が中心です。
2.2 出版社がBODを利用する例
Webを探したところ出版社でBODで本を販売しているケースを見つけました。
(1) 森北出版
BOD書籍のご案内
http://www.morikita.co.jp/pod.html
BOD書籍のリスト
http://www.morikita.co.jp/bunya/20-1.html
ざっとみると平均：約215頁、3,582円。１頁あたり16.6円になります。一番安いもので13円弱。高いものが22円強です。専門書なので比較的高価です。
(2) 角川学芸出版
BOD書籍
http://www.kadokawagakugei.com/ondemand/list-c.php
角川地名大辞典、角川選書、源氏物語評釈のBOD本が出ています。比較的ポピュラーと見られる角川選書でも最低価格は3,000円です。かなり高価という印象を受けます。
3. BODの可能性（所感）
3.1 市販本
一般に市販する書籍を数を出そうとするとある程度安くする必要があると思いますが、森北出版や角川学芸出版のケースでみますと、一般の書籍と比べてかなり高価になっています。これだとどうしても必要な人を除いてなかなか売れないでしょう。
アマゾンがどういう価格を付けてくるか楽しみですが、下の参考資料を見ますと、アマゾンのBODでは印刷・製本コストに加えて、掛け率の問題で普通書籍の出版はできないように見えます。
3.2 私家書籍あるいは企業内書籍
書籍を販売しようとすると、どうしても他の書籍と価格競争になります。BODでは印刷して製本した書籍に価格的に太刀打ちできないように思います。
このようにBOD本を一般に販売するときは印刷製本済みの書籍との価格競争に巻き込まれるので、この領域でのBODの将来性はなかなか厳しいと思います。
そう考えますと、BODはむしろ自費出版、私家書籍、企業・団体で本をつくるのに向いているような気がします。
ところで、「なぜ日本は大東亜戦争を戦ったのか」（田原総一郎著、pp．324〜329）には北 一輝が「国体論及び純正社会主義」を書き上げて自費出版して、世の中と勝負する経緯が出てきます。本書は自費出版で大評判になるも、わずか6日間で権力と御用新聞によって発禁処分となり闇に葬られたわけです。こうした自費出版があったことに感銘を受けます。
3.3 電子書籍との関係
BODは手作りと言う点では今流行の自炊と似通っています。BODは電子から紙という方向なので紙をスキャンして電子化する自炊とは反対方向です。そうするとBODと言わずに「お袋の味」とでもというと流行るかもしれません。
それはともかくEPUBなどの電子書籍が普及する過程でBODがどうなるか？
とりあえずは形を欲しがる著者と読者にはBODで提供し、形にこだわらない著者と読者にはEPUBで提供したらどうでしょうか？そうすると両方に対応できるCAS-UBで本を作るのがお勧めということになりそうです。
最後はなんだか手前味噌な結論で申し訳けありません。
3.4 参考資料
5月1日 AmazonのPODは新規参入出版社にとってきつい
http://d.hatena.ne.jp/mazmot/20110426/1303818760
